幽霊の記憶

懐かしいうに

何も変わらないのだろうか-書を捨てよ町へ出よう-感想

とにかく演出というか、構図というか、撮影というかが…すごかった。
こんなことされたらこの後に映像を作る人は何かしら真似てしまうだろう。

主人公が線路を走る映像をその前にカメラをもたせて走らせ、ブレブレの映像を撮っていたシーン、いつ何が映るかハラハラしながら見ていた。
赤線だか青線だか知らないが風俗嬢に体をまさぐられながら流れる念仏。
燃える星条旗
どう見ても事前に周知したりしてない雑踏でのカット、ちんぽサンドバッグをぶらぶら吊るして殴らせてみたり、通行人に話しかけてみたり。

うさぎ変態って何だよ!と思っていたがうさぎ変態以外に適切な単語が現代でも見つからない。

左翼的思想を滔々と語り、良い暮らしをするサッカー部の先輩と、それに牽引される主人公という構図に、ぼくは昔読んだ「青春の門」という小説を思い出していた。
なんのことはない、学生運動が活発な時代を描いた作品をこれしか知らないだけなのだが、封建的なものからの離脱!とか、先輩に連れられて宿に押し込められるところなんかはどうしてもチラついてしまった。

主人公は根暗でひ弱で優柔不断、母親への嫌悪感からか女性への未知なる恐怖心かしらないが売春宿からも逃げ出す生粋の童貞。
クソみたいな家庭から逃げ出したいと渇望しながら、その臆病さと非力さから妹からも拒絶されてしまう。

とことん鬱々としている。
逃げ出すことを諦め、飛行機が燃えて灰となる。

でも主人公は行動しているんだよな。それで何かができたのか?と先輩はあざ笑うけど。
目的のない行動。方向のない怒り。空を飛んでも着陸地点のことなんて考えてない、刹那的な衝動。

ぼくはここからなにか感じることができただろうか。明日を動く力にすることができるだろうか。

でもすぐ忘れてしまうだろう。消えた国のように。

でも何かは残るだろう。網膜に焼けた白いスクリーン、焚かれたフラッシュの立ち上る煙、パンク、プログレッシヴ・ロックの残響を思い出せるように。

J.A.シーザーの劇伴は最高だった。